筋肥大の効果と遺伝子の関係を徹底解明!体質を見極めて自分に合うトレーニング方法を探そう

筋肥大の遺伝子

理想の肉体を目指してトレーニングを続けていくなかで、どうしても自分の限界が気になってしまうことがあると思います。
トレーニングを何年も続けていると、次第に筋肉量が増えなくなっていきます。
そこで問題になるのは、生まれ持った体質が筋肥大にどのような影響を与えるのかといった、遺伝子の要素に関することです。

実際のところ、筋肥大の限界値や速度には大きな個人差があり、それは数々の研究によっても証明されています。
しかし、そういった研究も遺伝的特性が筋肥大に与える影響を示すには不十分なので、様々な要素をしっかり考慮して判断する必要があります。
そこで今回は、遺伝子が筋肥大に与える影響や体質の見極め方について、次のポイントを詳しく解説していきます!

この記事でわかること

  1. 実際に行われた研究のほとんどで、筋肥大の効果には大きな個人差があることが分かっている
  2. 速筋繊維と遅筋繊維の割合は先天的に決まっているため、筋肉のサイズが大きくなるスピードには個人差がある
  3. 筋肉の成長を抑えるミオスタチンの発現が少ないと、筋肉の成長が非常に早くなる
  4. スポーツ遺伝子とも呼ばれるACTN3遺伝子は、速筋繊維の性質に影響を与えると考えられている
  5. ACTN3遺伝子の正常型と変異型は一生変えられないが、変異型でも決して悲観する必要はない
  6. ケイシー・バットモデルを活用すれば、現実的に到達できる筋肉量の推定値を求められる
  7. 筋肉が短いほど体積を増やしやすいので、身長の低い人は筋肉が付きやすい
  8. 元々の体型は筋肥大の効率には関係ないので、ガリガリ体型の人でも筋骨隆々の肉体を手に入れられる
  9. 遺伝的な要素が身体に与える影響は環境によって変えられるので、ウエイトトレーニングを続けることが大切
  10. 何でも遺伝子のせいにするのではなく、まずはトレーニングの方法や生活習慣を見直すことから始めよう
  11. 遺伝的要因が筋力に与える影響度は50%程度だという研究結果もあるので、体質について深刻に悩む必要はない
  12. 筋トレには筋肥大以外の素晴らしい効果も数多くあるので、限界に達した後は別の楽しみ方を見つけよう
  13. 先天的な要因に一喜一憂するのではなく、自分に合うトレーニング方法を探す指針にしよう

Contents

実際に行われた研究のほとんどで、筋肥大の効果には大きな個人差があることが分かっている

まず最初に、筋肥大の速度にはそのような個人差があるのかを、実際に行われた研究結果を見ることで確認しておきましょう。
これまでに数々の研究機関で同様の実験が行われましたが、いずれも似たような結果が出ました。
それは、筋肥大の効果には非常に大きな個人差があるということです。

下半身のトレーニングを行った研究では、人によって大きな違いが出た

ウエイトトレーニングの習慣がない被験者を66人集めて、下半身のトレーニングを行うことで筋肉量や筋力増加の個人差を調べました。
スクワット・レッグプレス・レッグエクステンションを8〜12回×3セット行うというメニューを組んで、それを週3回行うトレーニングを16週間続けました。

その結果、被験者たちは増え幅が大きかった人・中間くらいだった人・小さかった人という3つのグループに分かれ、それぞれ17人(25%)・32人(50%)・17人(25%)という綺麗な比率になりました。
筋肉量の増加率の平均値は、それぞれ58%・28%・ほとんど変わらないという結果になりました。
上位グループの被験者では、中間グループの倍以上も筋肉量が増加したことになりますが、筋繊維の成長が突出している被験者が1人おり、筋繊維がおよそ75〜80%も大きくなったのです。

筋繊維の成長について

下記URLより引用

なお、筋力の変化に関しては目立った違いは見られませんでした。
下位グループと中間グループのレッグエクステンションの最大筋力は、どちらも約35〜38%伸び、上位グループでは45%伸びました。
上位グループの被験者は筋肉の成長幅が倍以上も大きかったのにも関わらず、最大筋力の増加は他とあまり変わりませんでした。
つまり、筋肉量が増加していないからといって、必ずしも筋肉自体が成長していないというわけではないのです。

参考:Cluster analysis tests the importance of myogenic gene expression during myofiber hypertrophy in humans. J Appl Physiol (1985). 2007 Jun;102(6):2232-9.

トレーニングの前半では、どのグループでもウエイトの重量は着実に上がっていた

いずれのグループでも、前半の8週間までは重量の伸び方は似通っていました。
しかし、下位グループでは後半の8週間では目立った重量の伸びがありませんでした。
その他のグループでは、後半の8週間でも着実にウエイトを増やすことができました。

トレーニングを始めてからしばらくの間は、神経系の発達が進むため、筋肉量よりも筋力の方が発達していきます。
つまり、トレーニングの初期は筋肉量もそれなりに増えますが、トレーニングの種目自体が上達することによって、筋力が向上していくのです。
その後は神経系がそれほど発達しなくなるため、全てにおいて筋肉量の発達が重要になるのです。

しかし、この研究結果は単に「筋肉量が伸びなかったグループには筋肥大の才能がない」と判断することはできません。

なぜなら、この実験では単純なメニューを同じ条件で行ったものであり、個々の体質に合わせたトレーニングや栄養摂取の管理は行われていないからです。
単に今回のトレーニングの方法は、下位のグループには効果的でなかったとも考えられるのです。

全ての人間の遺伝子は99.9%以上同じものだが、遺伝子においてはたった0.1%が極めて大きな違いとなって現れる

遺伝子に関する基本的な内容を理解しておくと、ウエイトトレーニングと体質との付き合い方を考えやすくなります。遺伝子は私たちの身体を構成するための設計図のようなものですが、一卵性双生児以外はみんな違った遺伝子を持って生まれています。

しかし、私たちの感覚と遺伝子の世界の常識は全く違っているので、誤解してしまわないように注意が必要です。

実は、人間とゴリラではおよそ97%の遺伝子を共有していますが、自分がゴリラと97%も似ているとは思わないのではないでしょうか。全人間の遺伝子は人種に関わらず99.9%以上が共通ですが、自分が他人とそれほど似通っていると思えないことも多いはずです。

さらに、近親者同士ではほぼ100%近くの遺伝子を共有していますが、自分と両親、自分と兄弟では全く違う人間であるように感じられることも少なくありません。

このように、遺伝子の世界では私たちの感覚は通用せず、たった0.1%の違いが膨大な違いとなって現れます。また、仮に全く同じ遺伝子を持っているとしても、その遺伝子が実際にどのように働くかについては、生活習慣が影響を与えることが分かっています。

例えば、一卵性双生児は100%同じ遺伝子を共有していますが、成人時の身長や顔立ちが異なる事例も報告されています。このことは、筋トレを成功させる方法を考えるうえで大きなポイントになります。

先天的な要因で筋繊維の性質は決まっているので、自分に合ったトレーニング方法を選ぶ参考にしよう

前述したように、筋肉量や筋力の成長に関しては個人差が非常に大きく、単純なトレーニングで筋肉が大きく成長する場合もあれば、ほとんど大きくならないこともあります。

筋繊維について先天的な要因で決定していることは、

です。

これらの要素について確認しておくことで、適切なトレーニング方法を考える際の参考にしましょう。

参考:『先天的な要因で決定していることは?(44〜45ページ)』ー「石井直方の筋肉まるわかり大事典」(石井直方著)

速筋繊維と遅筋繊維の割合は、先天的に決まっている

筋繊維には瞬発力を発揮する速筋繊維と、高い持久力をもつ遅筋繊維の2種類があります。速筋繊維は筋肉の大きさに直接的に関わっているので、筋肉のサイズを大きくするためには、速筋繊維をいかに鍛えて大きくできるかがポイントになります。

つまり、筋肉に速筋繊維が多いほどウエイトトレーニングでは有利だということになります。

1976年に行われた生物学の実験では、双子の被験者の筋繊維を採取して、速筋繊維と遅筋繊維の割合を調べました。
その結果、遺伝的に共有していない部分がある二卵性双生児では筋繊維の比率が違っていたのに対し、一卵性双生児ではまったく同じ比率だったのです。
つまり、速筋と遅筋の比率は遺伝子によって決定されるという結論が出ました。

旧共産圏ではこの結果を活用して、早期の段階でアスリートの筋繊維組成を調査して、スプリント競技と持久性競技に振り分けるようにしていました。
速筋繊維は瞬発力を発揮するため、こちらの繊維が多い場合はパワーリフティングや陸上競技のスプリントに向いています。
したがって、筋トレで筋肉をできるだけ大きくするためには、生まれつき速筋繊維の割合の多い方が有利だということになります。

筋肉の成長を抑えるミオスタチンの発現が少ないと、筋肉が非常に大きくなりやすくなる

筋肉の成長を抑制する「ミオスタチン」という遺伝子が存在します。
筋トレ愛好家にとっては、筋肉はどこまでも成長してくれた方が望ましく、こういった遺伝子の存在は極めて迷惑に感じるかもしれません。
しかし、筋肉が成長しすぎることは生命維持という観点から危険性があるため、私たちの身体には筋肉の過剰な成長をとどめるミオスタチンが存在します。

ところが、先天的にミオスタチンが突然変異を起こした個体が存在しています。
ミオスタチンに異常があると、前述の筋肉の成長を抑制する作用が弱くなるため、通常よりも圧倒的に速いスピードで筋肥大が進みます。
ミオスタチンが全く発現しない遺伝子をもつ確率は4万分の1だと考えられているので、意外と多くの人が驚異的な筋肥大の素質を持っているということになります。

また、一般の人々でも一時的にミオスタチンの作用を抑えられる方法があります。
実は、高強度のウエイトトレーニングを行うと、ミオスタチンの発現がおよそ半分程度に落ちることが分かっています。
トレーニングによって筋肉が刺激を受けると、ミオスタチンのスイッチが切られて、筋細胞の増殖が促進されて筋繊維が太くなるのです。

参考:『筋肉の成長を邪魔するミオスタチンとは?(46〜47ページ)』ー「石井直方の筋肉まるわかり大事典」(石井直方著)

驚くべきことに、ミオスタチンがまったく発現しない人間の存在が確認されている

前述したミオスタチンがまったく作られない動物や人間の存在は、なんと実際に確認されています。1997年に「筋倍加突然変異」と呼ばれていた筋肉量が多い品種の牛が、実は遺伝子の異常によってミオスタチンが全く作られないことが判明しました、

このベルジャンブルーと呼ばれる牛では、筋肉量が通常より30%ほど多くなっています。

ベルジャンブルー

ミオスタチンが発現しないように品種改良されたベルジャンブルー

驚くべきことに、こういった牛と同じようにミオスタチンが全く作られない人間の子供も発見されています。2004年にドイツ人の医師によって発見された赤ちゃんは、産まれたときに筋肉量が普通の赤ちゃんのなんと2倍もありました。それだけではなく、わずか6ヶ月で立ち上がり、3歳で3kgのダンベルを持ち上げました。

その赤ちゃんの家系を調査すると、両親ともにプロの陸上競技選手で、その先祖には伝説的な力持ちだと言われた者が何人もいたのです。

ミオスタチンに異常があると筋繊維の数自体が多くなるので、ウエイトトレーニングを行うと超人的な力を得られる可能性は大いにあります。考えてみれば、古代ギリシア神話に登場する超人的な力持ちであるヘラクレスや、旧約聖書に登場する怪力の戦士サムソンのような人物は、まんざら単なる伝説や虚構ではないのかもしれませんね。

ちなみに、この遺伝子の突然変異が部分的に起こる確率は200人に1人だと考えられており、決して低い数値ではありません。身近なところに筋肉量が増えやすい人々が、意外と多く存在しているということを意味します。

もし自分が筋肉量が増えやすいと感じているなら、もしかするとミオスタチンの突然変異遺伝子を持っているのかもしれません。先ほどの赤ちゃんのようにミオスタチンが完全に発生しないためには、両親ともに変異遺伝子を持っている必要があるので、その確率は前述したように4万分の1となります。

参考:『生まれつき筋肉モリモリの人っているの?(48〜49ページ)』ー「石井直方の筋肉まるわかり大事典」(石井直方著)

ACTN3という遺伝子は、速筋繊維の性質に影響を与えると考えられている

運動能力と関連性があると考えられている遺伝子をスポーツ遺伝子と呼びますが、現在ではこういったスポーツ遺伝子が100個以上報告されています。

近年の研究では、ACTN3という遺伝子が生まれ持った筋肉の性質に1番大きな影響を与えると考えられています。ACTN3とは、α-アクチニン3というタンパク質をつくる遺伝子ですが、正常型と変異型が存在することが分かっています。

α-アクチニン3には、筋繊維の中でも速筋繊維で作られるタンパク質で、人間の場合は正常なタンパク質を作れるR型(正常型)遺伝子と、タンパク質を全く作れないX型(変異型)遺伝子があることが分かっているのです。

では、変異型の遺伝子を持っている人は、速筋繊維が機能しないのかというと、決してそんなことはありません。

α-アクチニンには1〜3のタイプがあり、遅筋繊維にはα-アクチニン2のみが存在しますが、遅筋繊維には2と3のどちらも共存しています。そのため、速筋繊維で3がなくても2があれば筋繊維としての機能を果たせます。α-アクチニン3が作られないと筋肉にどのような影響があるのかは、実はよく分かっていません。

しかしながら、オリンピック選手などの超一流のアスリートの遺伝子を調べてみると、スプリントやパワーリフティングのような瞬発力を必要とする競技では、ACTN3の遺伝子変異が極めて少なく、持久性競技では半分くらいは変異型だということが分かったのです。

また、変異型の割合を人種的な観点で見てみると、黒人では3%以下、白人は15%程度、東洋人では30%くらいだということが分かっています。

参考:『スポーツ遺伝子とは?(52〜53ページ)』ー「石井直方の筋肉まるわかり大事典」(石井直方著)

ACTN3遺伝子の正常型と変異型は一生変えられないが、変異型でも決して悲観することはない

持って生まれた遺伝子を変えることはできませんが、ACTN3遺伝子が筋肥大の能力にどれだけの影響があるのかも、まだほとんど分かっていないのが現状です。前述したように、ACTN3遺伝子の変異が少ない人はスプリント競技に向いていますが、アメリカで行われた研究では変異型を多く有している人の方が、ウエイトトレーニング時の筋力の伸びが大きいことが分かりました。

一般的に、こういった実験で行われるトレーニングは質が悪く、わずかな種目を単に決められた回数だけ行うというものです。

冒頭で紹介した実験でも、被験者にトレーニングを行わせて筋肉量や筋力の成長度を見ましたが、やはりトレーニングの内容は中途半端なものでした。したがって、こういった研究ではどんな遺伝子を持つ人間が筋肥大の能力が高いのか、実際のところはよく分からないのです。

これらの実験で身体の反応が悪かったからといって、筋肥大しにくい体質だとは限りませんし、反応が良いからといって筋骨隆々の肉体を簡単に手に入れられるとは限りません。トレーニングに対する身体の反応が良いのは、速筋繊維が刺激を受けやすいため敏感なのだと言い換えることができます。こういう体質の人が激しいトレーニングを行うと、簡単にオーバートレーニングになってしまいます。

その一方で、身体がトレーニングに反応しにくい体質の人は、筋繊維が鈍感なため刺激を受けにくいため、強い肉体だと言うこともできます。こういう体質の人は、中途半端なトレーニングでは身体が反応しにくいため、相当に強い負荷をかけるトレーニングを行う必要があります。このように、ウエイトトレーニングの効果を高めるためには、自信の体質を理解してトレーニングのメニューを組むことが重要なのです。

1年間で筋肉量をどれくらい増やせるのかを推測するためのモデルは、いくつかのモデルがある

筋肉量の増加速度には、人によって大きな違いがあることや、そういった違いを決定づける遺伝的要素は複数あり、それらが複雑に影響しあって筋肥大の個人差ができることが分かりました。
また、ウエイトトレーニングで重要なもうひとつのポイントは、最終的に筋肉量をどこまで増やせるかということです。
特定の期間で増やせる筋肉量を推測するためには、どのような方法があるのでしょうか。

アラン・アラゴンモデルでは、体重に対する割合で筋肉量の増加を推測する

アラン・アラゴンは1ヶ月間で増やせる筋肉量について、トレーニングの経験値と体重との関係によって、次のような推測が可能だとしました。大まかな感覚でしかありませんが、筋肉量は体重と大きな関係があるので、このモデルはおおむね正しいものだと考えられています。

なお、トレーニングの経験値は1年ごとに上がるものとして仮定されていますが、体質やトレーニングの方法によっては前後します。

  • 初心者(1年目)…体重の1.0〜1.5%(1年間では体重の12〜18%)
  • 中級者(2年目)…体重の0.5〜1.0%(1年間では体重の6〜12%)
  • 上級者(3年目)…体重の0.25〜0.5%(1年間では体重の3〜6%)

例えば、体重50kgの初心者がトレーニングを始めると、1ヶ月に0.5〜0.75kgくらいのペースで筋肉を増やせる計算です。このペースで1年間トレーニングをきちんと続ければ、およそ6〜9kgほど筋肉量を増やすことができ、中級者の段階へ進みます。さらに1年後には3〜6kgほど筋肉量が増えるため、上級者に到達するまでには合計で9〜15kgほど筋肉量を増やせると考えることができます。

上級者になる3年目の段階では、1年間に1.5〜3kgほどの筋肉量しか増やせなくなり、どれだけ努力しても初心者の頃のような急激な成長は見られなくなります。したがって、トレーニング開始から3年が経過するまでには、元々が50kgの男性では10.5〜18kgの筋肉量を増やせるということになります。筋肥大を行うためには体脂肪も増やす必要があるため、体重としては20kgほど増えた70kg前後になると考えられます。

ただし、この推測値はあくまで質の高いトレーニングを続けた場合の結果なので、トレーニングの強度や頻度が不十分な場合は、筋肉の成長も小さくなって経験値の上昇も遅くなります。
ちなみに、自重トレーニングを3年間続けた後でウエイトトレーニングへ移行したような場合でも、上級者ではなく初心者の経験値からスタートすることになるので、急速な筋肥大効果を得られます。

ケイシー・バットモデルを活用すれば、かなり現実的な筋肉量を想定することができる

ケイシー・バット(Casey Butt)は、自身もドラッグフリーの(アナボリックステロイドなどのドーピングを行っていない)ボディビルダーで、自身と同じくドラッグフリーのボディビルダーを徹底的に分析して、自身の最大筋肉量の推定値を求めるための計算機を発明しました。したがって、ケイシー・バットモデルを活用すると、最終的な筋肉量を正確に推測することができます。

実は、筋肉に関する遺伝子的な素質を推測するうえで最も参考になるのは、骨格のサイズだと考えられています。骨格の大きさや成長に強い影響を与えるのは、テストステロンの分泌量だということが分かっています。骨格のサイズにはテストステロンの分泌量が大きく影響しているので、骨格が大きな男性は先天的なテストステロン分泌量も多いと考えられます。

さらに、テストステロンの分泌量が筋肥大の効果にも大きく影響することが分かっているので、骨格のサイズが大きい方が筋肉も成長しやすいと考えることができるのです。

意外なことかもしれませんが、手首や足首を太くすることはできません。その証拠に、プロのボディビルダーがステロイドを使用して筋肉を極限まで大きくしても、手首や足首はほとんど太くなりません。

したがって、生まれ持った骨格のサイズから最終的な筋肉量を推測するのは、極めて論理的な手法なのです。

実際に数値を入力して、最終的な筋肉量や各部分のサイズを推測してみよう

バット氏が開発した計算機では、手首と足首の周囲径を入力することで、最終的に到達するであろう筋肉量や、胸囲や上腕、太股などの重要な部分の推定サイズを計算してくれます。

次のサイトで公開されていて、必要な情報を入力すれば現実的な目標値が分かるので、ぜひとも活用してみましょう。
(ただし、この計算機はアメリカ人が作ったものなのでインチ単位で入力する必要があります。センチメートルを2.54で割って、インチ単位での数値を出しましょう。)

http://www.weightrainer.net/bodypred.html

例えば、身長170cm・手首17cm・足首22cm・体脂肪率15%という体型の場合は、上から66.92・6.69・8.66・15という順番で入力してCalculateをクリックすると、計算結果が表示されます。なお、体脂肪率は予想体重の結果にしか影響しないので、各部位のサイズだけを知りたい場合は適当に入力して構いません。

また、表示された結果はヤードポンド法で表記されているので非常に分かりにくいですが、in(インチ)で表示される部分は2.54を掛けることでセンチメートル単位に、lbs(ポンド)は0.45を掛ければキログラムに換算できます。
例えば今回の例の場合では、胸囲は最大で45.3インチ、つまり115cmくらいまで成長できるということになります。

ケイシーバットモデル

ケイシーバットモデルによって自分の最終的な筋肉量やサイズを推測出来る

ケイシーバットモデルでは、身長180cmを超えるくらいまでは基本的に控えめな数値が算出されるので、場合によっては算出された数値よりも筋肉のサイズが大きくなることもあります。
いずれにせよ、ケイシーバットモデルはかなり信頼性が高いので、気になる場合はデータを入力してみましょう。

理想の肉体を目指す際のポイントや、遺伝的な体質との付き合い方を理解しておこう

これまで解説してきたように、個人が持つ遺伝的な体質によって筋肥大の効率は大きく異なり、骨格のサイズから最終的な筋肉量や各部位のサイズを想定できることが分かりました。筋肥大は様々な要素が複雑に絡み合って発生するので、これらの要素との上手な付き合い方を理解しておき、理想の肉体へ向かってトレーニングを続けていきましょう。

筋肉が短いほど体積を増やしやすいので、身長が低い方が筋肉は付きやすくなる

マッチョでサイズの大きい体格をしている人は、意外と背が低い人が多いと感じたことがあるのではないでしょうか。
実際に、身長が高いよりも低い人の方が、筋肉は付きやすいことが分かっています。アナボリックステロイドなどのドーピングを行わない場合、身長が低い方が明らかに筋肉量を増やしやすいのです。

筋肉を太くするためにはそれだけ筋肉の体積を増やす必要があるので、筋肉は短い方が太くなりやすいです。身長が高い人はそれだけ各部分の筋肉が長いので、タンパク質などの栄養もより多く摂取する必要があります。

したがって、ドーピングが一般化する前のボディビルでは、選手の身長は170cmに満たない者が多く、どれだけ高くても175cmくらいのものだったのです。

現在のアメリカのボディビルでは、身長180cm以上の選手が平均的になっていますが、ドラッグフリーのボディビルダーでは現在でも身長170cm前半の選手が大半です。

ちなみに、日本の若年層の平均身長はおよそ170cmで、白人や黒人では175cmなので、この身長を超える場合は高身長と言っても良いでしょう。このように、身長が高い場合はそれだけでも筋肉量は付きにくくなるので、トレーニングを行う際は筋肉への刺激をしっかり与えられるようにする必要があります。

参考:『背の高い人は筋肉がつきにくい?(356〜357ページ)』ー「石井直方の筋肉まるわかり大事典」(石井直方著)

元々の体型は筋肥大の効率には関係ないので、ガリガリ体型の人も心配する必要はない

意外なことかもしれませんが、トレーニングを始める前の体型は、ウエイトトレーニングの結果には影響しないことが分かっています。
元々ガリガリな体型の人が筋肥大しにくい体型なのかというと、決してそんなことはありませんし、元々筋肉質な人が簡単に筋肥大できるのかというと、必ずしもそうとは限りません。

例えば、ネット上では国内外問わず「昔はガリガリだったけど、努力してムキムキのマッチョになれた」というサクセスストーリーがよくありますが、こういった物語は決して嘘ではないのです。
筋肉がほとんどないような痩せた体型でも、手首や足首はそれほど細くなかったり、肩幅は案外広かったりすることもあります。

ガリガリの人がトレーニングを始めて、驚異的に大きくなれたという話は珍しくないのです。

ウエイトトレーニングで最も高いレベルに到達できるのは、骨格が大きくて元々の体型が筋肉質で、さらに速筋繊維が豊富な筋肉を持って生まれた人です。

ただし、仮に元々の骨格が小さい場合でも、決して悲観して諦める必要はありません。なぜなら、遺伝子の発現は複雑な要因で変わるため、トレーニングを続けることで体質も少しずつ変わるからです。

遺伝的な要素が身体に与える影響は環境によって変えられるので、ウエイトトレーニングは続けることが大切である

遺伝子自体を変えることはできませんが、遺伝的な要素が身体に与える影響は環境によって変えることができます。

結局のところ、筋肥大の効率に最も大きな影響を与えるのは、男性ホルモンであるテストステロンの分泌量なのです。これは、アナボリックステロイドを使用すると圧倒的に筋肉の成長が早くなることから、容易に推測することができます。

したがって、先ほどのケイシー・バットモデルでは、生まれつき骨格の大きな人はテストステロンの分泌量も多いため、最終的な筋肉のサイズも大きくなると仮定しているのです。

このテストステロンの分泌量は、ウエイトトレーニングを長期間続けることで、分泌量が自然と増えることが分かっています。アナボリックステロイドと比べれば微々たるものですが、体質に影響を与えるので元々の分泌量が少ないほど効果的です。

例えば、ネット上では「筋トレで精神的にも強くなって人生が変わった」という話がありますが、これにもテストステロンの分泌量が影響しています。

テストステロンの分泌量が多い男性は、自分に強い自信があるためポジティブな精神状態を保てるようになります。こういった変化は元々の分泌量が少なかった男性ほど感じやすいので、筋トレで身体だけではなく精神も逞しくなると実感しやすいのです。

骨格自体は成長期を終えると成長しなくなるため、どれだけテストステロンの分泌量を増やしても骨格のサイズは大きくなりません。

しかし、筋肉は何歳になっても成長するので、自然に分泌されるテストステロンの分泌量が増えると、筋肉も成長しやすくなるのです。つまり、筋肥大に影響を与えやすい遺伝的な要因は、長期間のトレーニングを続けることで良い方向に変化しやすいのです。

何でも遺伝子のせいにするのではなく、まずはトレーニングの方法や生活習慣を見直すことから始めよう

冒頭の研究で紹介したように、トレーニングに対して身体が反応しやすい体質と、そうではない体質があります。

したがって、ひとつのトレーニング方法を実践してなかなか筋肉が大きくならないからといって、自分がウエイトトレーニングに向いていないと考えるのは間違いです。

筋肉が付きにくいと思っても、実際にはトレーニングの方法が悪かったり、栄養摂取や睡眠の習慣が悪かったりする場合がほとんどです。筋トレは王道の方法を実践すれば必ず良い結果が得られるわけではなく、体質を見極めて自分に合うトレーニング方法を探さないと、高いレベルに到達することはできません。

例えば、セオリーどおりの高強度×低回数のトレーニングで効果を得られないのなら、まずはフォームをしっかり見直しましょう。それでも効果を得られないのなら、強度や回数を増やしたり減らしたりして、筋肉量が一番成長しやすい範囲を探しましょう。

ひとつの方法が効果的かどうかを判断するには少なくとも数ヶ月はかかるので、自分に合うトレーニング方法を探すのはとても大変な作業です。

また、自分を他人と比較して嘆くのも非常に愚かしい行為で、必ず改めるべき精神性です。どんな物事でも同じことですが、自分と他人を比較しているようでは、いつまで経っても自分が真に望むものは手に入りません。

ウエイトトレーニングでは、他人ではなく自分をライバルだと思い、自分自身と戦うことを意識することが大切です。

体質や遺伝子に責任を転嫁するのではなく、まずは一貫性のあるトレーニングを続けよう

確かに、ボディビルやフィジークの大会で良い結果を残すためには、遺伝子の要素が非常に大切になります。しかし、大会に出場するつもりがない一般の筋トレ愛好家には、遺伝子が筋肥大の問題になることはまずありません。

遺伝子や体質について悩む前に、まずは最大限の努力で筋肉をどんどん成長させていきましょう。

どんな方法を試しても身体が大きくならないということはあり得ません。

前述したように、たとえ生まれつき筋肉がつきにくい体質であったとしても、着実にトレーニングを続ければ筋肉は確実に大きくなっていきます。筋トレを始めてもなかなか結果が出なかったけど、何年も続けているうちに身体の反応が良くなって、理想の肉体を手に入れることができたという話も珍しくありません。

精神論のように感じられるかもしれませんが、「気持ちの持ち方」というのはトレーニングの結果を左右する大きな要素になります。

例えば、「どうせ俺なんてダメだろうな…」などという気持ちでトレーニングしても、ほとんどの場合で大した結果が出ません。「俺なら絶対できる!」という自信をもって行うと、同じことをしても効果は大きくなります。

少なくとも3ヶ月は一貫性のあるトレーニングメニューを続け、その方法が自分に合っているかどうかを確かめましょう。

筋トレを10年間も続けて筋肉が圧倒的に成長して、様々なトレーニング方法や生活習慣の改善を試した結果、それ以上もう身体が大きくならないなら遺伝子の限界に達したということです。

もしその状態で理想の肉体を手に入れられなかったのなら、それが自分が手に入れられる最大限なのだと諦めるしかありません。そのレベルに達した後は、別の目的をもってウエイトトレーニングを楽しむようにしましょう。

参考:『筋肉がつきにくい体質はある?(350〜351ページ)』ー「石井直方の筋肉まるわかり大事典」(石井直方著)

遺伝的要因が筋力に与える影響は50%程度だという研究もあるため、遺伝や体質について深刻に悩む必要はない

順天堂大学のZempo氏らは、人間の様々な要素の遺伝率を解き明かすために調査を行いましたが、その結果筋力の遺伝率は52%程度(48%以上56%以下)であると結論づけました。

筋力は筋肉量と深いつながりがあるため、筋肉量の遺伝率が52%であると言い換えても構わないでしょう。

遺伝率が52%というのは、遺伝的要因と環境的要因の影響が半分ずつあるということです。遺伝的要因が最も高いと考えられているのは音楽的才能で90%ですが、筋力は外国語の習得と同じく50%程度の遺伝率なのです。

つまり、ウエイトトレーニングは環境的要因を突き詰めれば、外国語と同じように誰でも優れた結果を出すことができるのです。

筋トレの環境的要因とは、主に食事や生活の習慣、さらにストレスのコントロールなどです。こういった要因を改善することで、遺伝的にはあまり恵まれていない人でも、筋骨隆々の肉体を手に入れられる可能性は十分にあるのです。

そのためには、やはりウエイトトレーニングに関する様々な知識を身につける必要があるでしょう。

参考:Zempo H, et al. Heritability estimates of muscle strength-related phenotypes: A systematic review and meta-analysis. Scand J Med Sci Sports. 2017 Dec;27(12):1537-1546.

筋トレには筋肥大以外の素晴らしい効果も多くあるので、限界に達した後は別の楽しみ方を見つけよう

一般的なスポーツには年齢の限界があり、アスリートは30代や40代で引退することがほとんどです。

しかし、ウエイトトレーニングはたとえ50歳から始めたとしても、非常に大きな効果を得ることができます。さらに、筋トレには単に筋肉を大きくするだけではなく、身体機能や体力の強化や、精神的な健全性や自尊心の向上など、数々の素晴らしい効果があります。

誰しも年齢を重ねると身体が老化して、自然と体力が衰えていきますが、筋肉量が減るとさまざまな疾患や怪我の原因となります。
しかし、筋力トレーニングを長期間続けていると、成長ホルモンの分泌量が高い状態で保たれるため、アンチエイジングの効果が非常に高く、場合によっては性的な機能が高まることも分かっています。

つまり、ウエイトトレーニングによって老化を防止することができるのです。

筋トレを何年も続けて身体が成長しなくなってきたとき、遺伝的な要素をネガティブな方向で捉えてしまうと、もうトレーニングを続ける気力が失われてしまうかもしれません。そんなときは、こういったウエイトトレーニングの別の効果に意識を移して、今までとは違った意識でトレーニングを続けてみると良いでしょう。

遺伝子と筋肥大の関連性を正しく理解して、トレーニングの効果を高めよう!

今回は、遺伝子が筋肥大に与える影響や体質の見極め方について、次のポイントを詳しく解説してきました。

今回のまとめ

  1. 実際に行われた研究のほとんどで、筋肥大の効果には大きな個人差があることが分かっている
  2. 速筋繊維と遅筋繊維の割合は先天的に決まっているため、筋肉のサイズが大きくなるスピードには個人差がある
  3. 筋肉の成長を抑えるミオスタチンの発現が少ないと、筋肉の成長が非常に早くなる
  4. スポーツ遺伝子とも呼ばれるACTN3遺伝子は、速筋繊維の性質に影響を与えると考えられている
  5. ACTN3遺伝子の正常型と変異型は一生変えられないが、変異型でも決して悲観する必要はない
  6. ケイシー・バットモデルを活用すれば、現実的に到達できる筋肉量の推定値を求められる
  7. 筋肉が短いほど体積を増やしやすいので、身長の低い人は筋肉が付きやすい
  8. 元々の体型は筋肥大の効率には関係ないので、ガリガリ体型の人でも筋骨隆々の肉体を手に入れられる
  9. 遺伝的な要素が身体に与える影響は環境によって変えられるので、ウエイトトレーニングを続けることが大切
  10. 何でも遺伝子のせいにするのではなく、まずはトレーニングの方法や生活習慣を見直すことから始めよう
  11. 遺伝的要因が筋力に与える影響度は50%程度だという研究結果もあるので、体質について深刻に悩む必要はない
  12. 筋トレには筋肥大以外の素晴らしい効果も数多くあるので、限界に達した後は別の楽しみ方を見つけよう
  13. 先天的な要因に一喜一憂するのではなく、自分に合うトレーニング方法を探す指針にしよう

ウエイトトレーニングの効果には遺伝的要素が大きく関係していると言われていますが、実はどんな遺伝子をもっている人に筋肥大の才能があるのかは、まだ明らかになっていない部分が多いのです。
遺伝的な要素が筋肥大に与える影響は50%程度だという研究結果も報告されているため、実際のところはあまり深刻に考える必要はないのです。

むしろ、遺伝子や体質のことで一喜一憂するのではなく、トレーニングを続けていくうえで自分の体質を見極めて、それに合わせてトレーニングの方法を考えていくことが重要です。

筋肉は何歳になっても成長するため、ウエイトトレーニングは続けることで必ず結果が出ます。自分の体質と上手に付き合い、理想の肉体を手に入れましょう!

以上、「筋肥大の効果と遺伝子の関係を徹底解明!体質を見極めて自分に合うトレーニング方法を探そう」でした!

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