ウエイトトレーニングを行うとき、ウォームアップはどのように行っているでしょうか?
安全かつ効果的なトレーニングを行うためには、ウォームアップで筋肉を温めてからトレーニングに臨む必要があります。
しかし、ウォームアップは正しく行わないと、むしろパフォーマンスの低下を招いてしまいます。
筋トレのパフォーマンスを高めるウォームアップ方法として近年注目されているのが、今回ご紹介する「特異的ウォームアップ」です。
特異的ウォームアップの効果は科学的にも証明されているので、筋トレ愛好家はぜひとも取り入れることをオススメします。
今回は、トレーニングのパフォーマンスを高められる特異的ウォームアップの効果や方法について、次のポイントを詳しく解説していきます!
この記事でわかること
- 特異的ウォームアップとは、実際のトレーニング動作を低負荷で繰り返し、筋肉や神経系を活性化させることができる
- 筋肉の温度が1℃上昇すると筋力は4〜5%アップするので、ウォームアップを行うと運動能力が飛躍的に向上する
- これまでのウォームアップ方法は、中強度の有酸素運動を10〜20分程度行うものだった
- 特異的ウォームアップの効果は科学的に証明されており、有酸素運動と組み合わせると最大限の効果を得られる
- 特異的ウォームアップは発展途上のシステムなので、最適な方法はまだ分かっていない
- 特異的ウォームアップでは、本番のトレーニングと同じように筋肉の動作を意識することが大切
- ウォームアップは筋肉を温めるために行うので、筋肉が疲労するまで続けてはいけない
- 前回と同じ部分を鍛える場合は、最初のような丁寧なウォームアップを行う必要はない
- これまでの種目と全く違う部分を鍛える場合は、筋肉がまだ温まっていないためウォームアップを丁寧に行う必要がある
Contents
特異的ウォームアップとは
特異的ウォームアップとは、実際のトレーニング動作を軽い負荷で行う、筋肉や神経系を活性化させることを目的としたウォームアップ方法です。特異的ウォームアップを意識的に取り入れることで、ウエイトトレーニングのパフォーマンスが向上することが分かっています。
運動のパフォーマンスを高めるためには、ウォームアップで身体を温める必要がある
スポーツやウエイトトレーニングを行う前には、怪我を防止してパフォーマンスを向上させるために、ウォームアップが必要です。
何のウォームアップも行わずにいきなり高負荷のトレーニングを行うと、単にパフォーマンスが出ないだけではなく、バランスを崩して怪我をしたり、急激な負荷で筋肉が断裂してしまったりする可能性が高いので非常に危険です。
ただし、せっかく頑張ってウォームアップをしても、正しくない方法でやるとむしろパフォーマンスが低下するので、ウォームアップは適切に行う必要があります。
ウエイトトレーニングにおいては、事前にストレッチを行うことで筋肉のパフォーマンスが高まると説明されることもありますが、ストレッチにはネガティブな作用が大きいことが分かっているので、筋トレ前にストレッチをしてはいけません。
ストレッチにはケガを防止する効果があるため、確かに筋トレの前にストレッチを行うとケガをしにくくなります。
しかし、その一方でストレッチには筋肉をリラックスさせる効果があるため、筋肉が伸びるときに発揮できるパワーが低下してパフォーマンスが悪くなると考えられます。
ウォーミングアップの最大の目的は、筋肉のリラックスではなく筋肉の温度を高めることにあるのです。
筋肉の温度が1℃上昇すると筋力は4〜5%アップするので、運動能力が飛躍的に向上する
運動前にウォームアップを行う最大の理由は、まず筋肉を温めてパフォーマンスを高めるためです。
体内の化学反応には「温度依存性」があり、温度が高くなるほど化学反応も早くなるという性質があります。
ウォームアップはこの性質を活かして、筋肉内部で起こる化学反応を活性化させるという狙いがあります。
ただし、温度が高まるとパフォーマンスが良くなるからといって、温めすぎるのは問題です。
筋温(筋肉の温度)が41℃以上になると、筋タンパク質が変性してパフォーマンスが急激に悪化してしまうため、39℃くらいが適切だと考えられています。
筋温が10℃上がると生体反応の速度は2.5倍に高まるため、ウォームアップによって筋肉の温度が1℃上昇すると、筋力が4〜5%ほど向上することが分かっています。
前述したとおりストレッチには筋トレに対してネガティブな作用が多いため、有酸素運動を10分ほど行うのが良いとされてきました。
軽いジョギングのような運動でも、筋温がじっくり上がっていくため、10分もやれば筋肉は39℃くらいまで温まることが分かっています。
しかし、こういったウォームアップ方法は、ウエイトトレーニングのパフォーマンスを高めるには十分ではありませんでした。
ウエイトトレーニングの効果を高めるために、適切なウォームアップが大きな威力を発揮する
ウエイトトレーニングの効果を高めるには、トレーニング方法の工夫、プロテインやクレアチンの摂取など、様々な方法があります。
しかし、もっと基本的なことを工夫するだけでも、トレーニングの効果を大幅に高めることができます。
そのひとつがウォームアップの方法で、今回ご紹介している特異的ウォームアップは特に効果的です。
これまでのウォームアップ方法は、中強度の有酸素運動を10〜20分程度行うものだった
残念ながら、これまではウエイトトレーニングのウォームアップについては研究が進んでおらず、経験則によって行われてきた部分が多いのです。
したがって、効果的なウォームアップ方法の確立はなかなか達成されておらず、ウォームアップによる筋トレのパフォーマンス向上は不十分なものでした。
これまでの常識では、ウエイトトレーニングのウォームアップとしては、ランニングやエアロバイクのような有酸素運動を、中くらいの強度で10〜20分ほど行うことが推奨されていました。
先ほども触れたように、有酸素運動を10分程度行うと筋肉の温度が2〜3℃上昇して、パフォーマンスが十分に向上することが分かっています。
しかし、よく考えてみるとこのウォームアップ方法は、あまり理にかなっているとは言えません。
実際のスポーツを行う場合を考えてみると、例えば野球でバッターが打席に入るときに、ピッチングの練習をすることはありません。
バッターは有酸素運動と一緒に、必ずバッティングの動作で身体を温めてから、本番のバッティングに挑みます。
これと同じように、ウエイトトレーニングを行う場合でも、実際の動作で身体を温めるのが最も合理的な方法なのです。
特異的ウォームアップでは、本番と同じ動作を低負荷で繰り返すことで行う
バッターがバッティングの動作で身体を温めるように、極めて合理的に行えるウォームアップ方法が、これから解説していく「特異的ウォームアップ」です。
何だかとても特殊な感じがするかもしれませんが、特異的ウォームアップとは「実際のトレーニングと同じ動作を低負荷で行う」という非常に単純なものなのです。
元々の英語名は「Specific Warmup」で、特効のあるウォームアップと言い換えることもでき、実際に特異的ウォームアップは非常に効果の高い方法です。
この特異的ウォームアップは極めて単純であるにも関わらず、他のウォームアップ方法と比べると、明らかにトレーニングのパフォーマンスが高まることが分かっています。
もしかすると、勘の良い人は特に意識せずとも、これまで特異的ウォームアップを実践していたかもしれません。
実際に、特異的ウォームアップはウエイトトレーニングにおいて取り入れられることもありましたが、それがトレーニングの効果を高めるメカニズムは科学的に証明されていませんでした。
近年の研究によって、特異的ウォームアップの優位性がようやく証明され始めたのです。
特異的ウォームアップの効果は科学的に証明されており、有酸素運動と組み合わせると最大限の効果を得られる
フェデラル大学のSa氏らが2016年に行った研究では、静的ストレッチ・動的ストレッチ・特異的ウォームアップの3種類のウォームアップ方法によって、それぞれトレーニング効果にどう影響するかを調べました。
トレーニングの内容は4種類の下半身種目(レッグエクステンション・レッグカール・レッグプレス・ハックマシンスクワット)で、筋肉が限界を迎えるまでの回数を測定しました。
特異的ウォームアップでは、それぞれの種目を行う前に、最大筋力の30%というごく軽い負荷で20レップのウォームアップを行いました。
その結果、全ての種目において動的ストレッチでは、他のウォームアップ方法と比べてレップ数が少なくなりました。
しかし、静的ストレッチと特異的ウォームアップではどちらもパフォーマンスが向上し、レッグエクステンション以外では特異的ウォームアップで最もレップ数が多くなりました。
ちなみに、静的ストレッチや動的ストレッチは、筋肉を伸ばすような通常のストレッチと同じだと考えても構いません。
つまり、特異的ウォームアップはストレッチよりも、トレーニング効果が高まるということなのです。
- PSS:passive static stretching
→静的ストレッチ - PNF:proprioceptive neuromuscular facilitation
→動的ストレッチ - SW:specific warm-up
→特異的ウォームアップ
さらに、McGowan氏らはウォームアップで筋トレのパフォーマンスを可能な限り高めるためには、特異的ウォームアップだけではなく、その前に有酸素運動も行うのがベストだと説いています。
トレーニング前にまず、ランニングやエアロバイクなどの有酸素運動を中強度で10分ほど行い、それから最初の種目の特異的ウォームアップを行うことで、トレーニング時の筋肉のパフォーマンスを最大限に高められるのです。
特異的ウォームアップの実践方法を確認して、実際のトレーニングで取り入れよう
ウエイトトレーニングを行う前のウォームアップとしては、まず最初に10分程度の軽い有酸素運動を行ってから、特異的ウォームアップを行うとパフォーマンスを最大限に高められることが分かりました。
それでは、具体的にどのように行うと、効果的なウォームアップができるのでしょうか?
特異的ウォームアップはまだ発展途上のシステムなので、最適な方法はまだ分かっていない
特異的ウォームアップは非常に効果的な方法ですが、残念ながらその最適な実践法については、現段階ではまだ明らかにされていません。
これは、特異的ウォームアップだけに注目して、重量・回数・インターバルなどの要素を変化させて、トレーニング効果がどう変化するのかという研究が行われていないためです。
とはいえ、筋肉の機能を高めるという意味や実際のトレーニングとの兼ね合いを考えると、概ね次のように行うのがベストだと思われます。
- 最初は非常に軽い負荷から始める
- 1段階ごとに1セットだけ行い、レップ数は8〜5回とする
- 1セットごとに20〜30%ずつウエイトを上げていく
- 時間短縮のためインターバルは挟まない
- 必ず本番のトレーニングと同じように筋肉の動作を意識する
- すでに同じ部分の筋肉を鍛えている場合は、ウォームアップを短縮する
ウォームアップの方法を最適化することは、サプリメント以外の方法で筋肥大の効果を最大限に高められる近道になります。
以上の6つのポイントを意識することで、特異的ウォームアップの効果を高めることができると考えられます。
特に、いくつかの点は効率的なトレーニングを行うために極めて重要になるので、特異的ウォームアップの実践方法について、実際のトレーニングを考えながら見ていきましょう。
特異的ウォームアップ実践の一例を参考にして、自身のトレーニングに当てはめて試してみよう
例えば、次のような単純な大胸筋のトレーニングメニューを行う場合に、特異的ウォームアップをどのように実践すれば良いのか、順を追って考えていきましょう。
どんな部位を鍛える場合でも基本は同じなので、自身のトレーニングメニューに当てはめて考えてみましょう。
- バーベルベンチプレス(100kg)
- ダンベルフライ(片手20kg)
- ダンベルプルオーバー(30kg)
前述したように、トレーニングに入る前に準備運動としてランニングやエアロバイクなどの有酸素運動を、中程度の負荷で10分ほど行います。
それから、最初に行う種目であるバーベルベンチプレスの特異的ウォームアップを行うことになります。
一般的に、トレーニングメニューの最初に高強度の種目を置くのがセオリーなので、バーベルベンチプレスのウォームアップは時間をかけて丁寧に行うことになります。
- 1セット目…20kg(シャフトのみ)を8回
- 2セット目…40kgを7回
- 3セット目…60kgを6回
- 4セット目…80kgを5回
以上の4セットがバーベルベンチプレスのウォームアップの一例になります。
重要なポイントは、必ず実際のトレーニングと同じ動作で筋肉を意識しながら行うことです。
さらに、1セットごとに重量を一定の割合で増やしておき、それに応じて筋肉の疲労を防ぐためにレップ数を少しずつ減らすことが大切です。
ウォームアップは筋肉を温めるために行うので、筋肉が疲労するまで続けてはいけない
ウォームアップの目的は筋肉を温めることなので、筋肉が疲労を感じるまで行ってはいけません。
そのためレップ数は8〜5回くらいに制限して、1段階の重量で1セットだけ行うようにするのです。
ただし、場合によってはウォームアップの5セット目に、90kgの重いウエイトで3〜4レップ程度を行っても良いでしょう。
筋肉が疲労しないため、特異的ウォームアップではインターバルを挟みません。
この例では3種目しか組んでいませんが、実際には60分ギリギリになるようなメニューを組んでいることが多いはずです。
ウォームアップでインターバルを挟むのは時間の無駄になり、さらにウエイトの交換時に数十秒は要するため、特に休憩を挟む必要はないのです。
ウォームアップが完了したら1分ほどの休憩を挟み、本番の100kgのセットを開始します。
ウォームアップだからといっていい加減に行うと、筋肉や神経系がしっかり温まらないのでパフォーマンスが上がりません。
本番のトレーニングに繋がるウォームアップだからこそ、意識と気持ちを込めてしっかり行いましょう。
前回と同じ部分を鍛える場合は、最初のような丁寧なウォームアップを行う必要はない
バーベルベンチプレスが完了した後は、ダンベルフライを行うことになります。
ダンベルフライを行う前にもウォームアップを行う必要がありますが、すでに同じ部分を先ほどの種目で鍛えているので、すでに筋肉は温まっています。
そのため、先ほどのようなきめ細やかなウォームアップは、時間短縮のためにも行う必要はありません。
片手20kgのダンベルフライを行う場合は、次のようなウォームアップを行えば十分でしょう。
これが完了した後は、本番のトレーニングを20kgのウエイトで行いましょう。
- 1セット目…片手10kgを8回
- 2セット目…片手15kgを5回
さて、この次は最後のダンベルプルオーバーを行うことになりますが、こちらは特殊な動作を行う種目です。
鍛える部分は同じ大胸筋であるため十分に温まっていますが、実際の動作を意識しながら行うことが重要になります。
30gのウエイトでダンベルプルオーバーを行う場合は、次のようなウォームアップを行えば良いでしょう。
- 1セット目…10kgを8回
- 2セット目…20kgを5回
やはり、先ほどのダンベルフライと同じようにウォームアップは短縮したものになります。
大胸筋の種目を2つ終えた後は筋肉が完全に活性化しているため、ウォームアップの重要性はさらに下がります。
しかし、ダンベルプルオーバーのような特殊なトレーニングでは、今までとは違った動作を行うので、筋肉への意識や動作方法を確認する意味でも2セットのウォームアップは着実に行いましょう。
このように、前の種目と同じ部位を鍛える場合は、すでに筋肉が温まっているので1〜2セットのウォームアップで十分です。
ただし、これまでの種目と全く違う部分を鍛える場合は、筋肉がまだ温まっていないためウォームアップを丁寧に行う必要があります。
例えば、大胸筋を鍛えた後に広背筋を鍛える場合は、最初に大胸筋を鍛えたときに行ったのと同じような、4〜5セットの丁寧な特異的ウォームアップを広背筋でも行うようにしましょう。
特異的ウォームアップを上手に活用して、トレーニングの効果を最大限に高めよう
今回は、トレーニングのパフォーマンスを高められる特異的ウォームアップの効果や方法について、次のポイントを詳しく解説してきました。
今回のまとめ
- 特異的ウォームアップとは、実際のトレーニング動作を低負荷で繰り返し、筋肉や神経系を活性化させることができる
- 筋肉の温度が1℃上昇すると筋力は4〜5%アップするので、ウォームアップを行うと運動能力が飛躍的に向上する
- これまでのウォームアップ方法は、中強度の有酸素運動を10〜20分程度行うものだった
- 特異的ウォームアップの効果は科学的に証明されており、有酸素運動と組み合わせると最大限の効果を得られる
- 特異的ウォームアップはまだ発展途上のシステムなので、最適な方法はまだ分かっていない
- 特異的ウォームアップでは、本番のトレーニングと同じように筋肉の動作を意識することが大切
- ウォームアップは筋肉を温めるために行うので、筋肉が疲労するまで続けてはいけない
- 前回と同じ部分を鍛える場合は、最初のような丁寧なウォームアップを行う必要はない
- これまでの種目と全く違う部分を鍛える場合は、筋肉がまだ温まっていないためウォームアップを丁寧に行う必要がある
筋トレの前に十分なウォームアップを行うことは、筋肉の損傷や怪我を防いだりトレーニングの効果を高めたりするために欠かせません。
一般的に、フィットネスクラブなどではトレーニング前のストレッチが推奨されていることがありますが、筋トレ前のストレッチにはネガティブな要素が大きいため決して推奨できません。
最適なウォームアップ方法とは、10分程度の軽い有酸素運動の後に、特異的ウォームアップを行うものです。
特異的ウォームアップは実際のトレーニング動作を低強度で行うもので、最初の種目では4〜5セット程度行うのが望ましいと考えられます。ウォームアップは1セットあたり8〜5レップしか行わず筋肉が疲労しないので、時間短縮のためにもインターバルは挟まないようにしましょう。
種目同士の繋がりを意識してウォームアップの内容を変えると、非常に効率的に筋肉を温めることができます。
特異的ウォームアップを取り入れて、筋トレの効果をさらに高めていきましょう!
以上、「特異的ウォームアップは筋トレの効果を最大限に高める準備運動の方法である」でした!